よめさま話
しなんたのおよめさん
野崎幸子さんのお話
- ご結婚のときは花嫁のれんもかけられたんですか。
- その頃は、花嫁のれんを嫁入り道具に持ってこられる人も
おいでたんですけど……。
のれんの意味って知ってます? - 実はちょうど先日七尾に行ったときに聞いたのですが、たしか、
「のれんが風になびくように、その家の家風になびくように」
とおっしゃっていたような。 - そうなんです。
わたしはそれにすごく抵抗があったんです(笑)。
あと、いまでは飾ったりもしていますが、
その頃は、結婚式のときに使ったら、
後はほとんどタンスにしまいっぱなし。
でも立派なのは100万ぐらいするというし。
いまの100万じゃないんですよ。
その当時、高卒の初任給が4万円。
いまやったら500万以上の価値があるものを
タンスの肥やしにするのにすごく抵抗があったんですね。
結局、おじが輪島塗の人を知っていて、
輪島塗の虎の蒔絵の衝立とご重を持ってきたんです。 - これですか。すごいですねえ!
- 花嫁のれんの代わりです。
- ご重というのは?
- 五段重。二段と三段に蓋があって。
そのご重にお饅頭を詰めて、風呂敷を載せて。
お嫁さんのお土産って風呂敷に決まっとってんね。
ちりめんとか木綿とかの大判の風呂敷を、
箱に入れてのしをかけて、わたしの名前をかいて、
お饅頭の入ったご重の上に載せて
「お嫁に来ましたからよろしくお願いします」と、
ご近所に一軒一軒配るんです。
わたしのときは130軒配りました。 - 130軒も! 中身だけお渡しするということですよね。
- お饅頭を取り出して風呂敷といっしょに渡し、
もらった人はご重の中にご祝儀のぽち袋を入れて返すんです。
そのご祝儀はお饅頭を配った人へのご祝儀になるんです。
きちっと正装して配ってもらうので。
いまは洋服やけど、昔はみんな振袖か付け下げで、
頭も美容院でセットして、正装してましたね。
いまはそこまでしないけどね。 - そのご重は、お正月などにも使うんですか。
- ほんとは使うんですけどね。
あとはお祭りのときとかね。
お祭りのときに、親戚を招くときは、
その家にご重にお餅を作って持って行くんです。
この辺の言葉で言うと
「今日お祭りやし来てくだいねー。餅持ってきたよー。」って。
その家の主はお祭りに来てもらうけど、
残った人はそのお餅を食べてください
という意味があったようです。
もらった人は「ありがとう」ってその場で開けて、
中身を出して洗わずそのまま返すんです。
それから、里帰りするときには、
ご重にお饅頭をいっぱい詰めて隣近所に配るんですね。
うちの奥ばあちゃんは婿取りなもんで、
「ご重に饅頭詰めてじいちゃんを実家に返そうって、
どんだけ思ったか」ってよく冗談で言っとったわ(笑)。 - 風呂敷も独特ですね。
- お嫁さんの風呂敷はちりめんで、
ご重の形とおなじ真四角で、
鶴亀の金糸の房飾りが付いてて。 - 準備はなかなか大変なことですね。
- 花嫁支度というのは昔で言うと財産分与の意味があったからね。
昔のお金で100万とか200万とかの花嫁支度が
普通だったんじゃないかねえ。
だから、「女の子三人おったら家が潰れる」って、
よくうちの母が言っとったわ(笑)。 - 他にも嫁入り道具を持ってこられたんですか。お着物とか?
- 着物はぎっしり。全部加賀友禅ですね。着ないけど(笑)。
- 桐ダンスですか。
- 桐ダンスの上に欅がはってあるの。