よめさま話
しなんたのおよめさん
野崎幸子さんのお話
- お子さんは。
- 男女一人ずついます。
50年生まれと54年生まれ。
2月のはじめに結婚して10月には生まれ、
年が明けて51年の1月から、
また薬剤師として働きはじめました。 - お子さんは預けて?
- ばあちゃんもおったしね。
みみょうとだったんでね。 - みみょうと?
- 「三夫婦」でみみょうと。
- お義母さんやおばあさんにみてもらったんですね。
- おばあちゃんは当時では珍しく、女で運転しとったから、
幼稚園まで迎えに行ってくれたりしたね。
近所の子らに「見ーま、見ーま、ババア運転しとるがいや」
ってよう言われて嫌やったって(笑)。 - おばあさんも農業をされていたんですか。
- そうやね。その年代の人はみんな田んぼで生活しとったね。
その次の世代もね。うちの親もそうやったしね。
田んぼで大学出してくれた。
その頃はお米もまだ価値があったんやね。
当時の物価にしたら、お米はそこそこいい値段やったんない。
いまは、兼業農家になる人も、田んぼをやめる人も多いね。 - お義母さんが赤ちゃんをみて若い人が働くというのは、
普通のことだったんですか。 - この辺みんなそうやね。いまでもそうやけど。
わたしらの年代はみんな、
じいちゃんばあちゃんに子どもを預けて、
幼稚園に預けてる間じいちゃんばあちゃんは田んぼして。
そんな感じやね。 - お子さんが1歳からだと、
けっこうすぐに働きはじめられたんですね。 - わたしらのときは育児休暇制度ってなかったから、
休みは産前産後6週間で42日間やった。
ちっちゃい子は19時までみてくれる乳児園もあったね。
だって17時に終わる会社ってないじゃないですか。
日曜日もみてくれるし。
だから、お姑さんおらん人で
そこへやって働いている人もけっこうおいでたね。 - やっぱり働き者なんですね、能登の人は。
- 「能登のとと楽、加賀のかか楽」(笑)。
かあちゃん、働きもんやね。 - 野崎家はご夫婦ともによく働いてらっしゃったんでしょうね。
- うちの人は大学卒業して信用金庫入って、
朝5時から7時まで田んぼして、それから会社行っとったわ。
法人になる前まではね。 - とと楽じゃないですね(笑)。
- けっこう面積が多いもんで、
4月に入ったらまるまるひと月ぐらいそんな感じで、
5月の連休も全部田んぼで。
わたしも朝、畔切ったり畔塗ったりしてましたね。
ばあちゃんがごはん用意してくれて。
あとは仕事が休みの日に手伝ったり。
法人になって楽になったね。
いまは畦塗りも機械でやるから。
女の人はほんと楽になったね。
することないがんなった(笑)。 - でもかぶらずしを作ったり、お漬物を作ったり。
- そういうことはできるようになったんない。
- 加工して販売できるといいですよね。
- そうやね。でも最初はそれよりも、
やっぱり添加物の入ってないものを食べさせたいとか
食べたいっていう思いがあったんやね。
わたしも自分の畑でも、
孫たちに農薬の少しでもかかってないものを
食べさせたいと思って作っとるね。
捨てる量も多いし、ある程度多めに作らないと
食べられる量ができないから、大変やけれども。
買ったほうが安い場合もあるけど、
そういうもんでもないしね。
子どもたちにちょっとでも安全なものを
食べさせてやれればいいかなと。
それから、この辺の人たちは、
「先祖代々の土地を荒らしたくない」
という思いが強いと思う。 - 大変なことですね。
- 家も守ってかんならんし、
畑も守ってかんならんし、
田んぼも守ってかんならんし。
自分の代だけじゃなくて、
先祖代々の預かりもんちゅう考えがやっぱりあると思う。
駅の一時預かり所みたいなね(笑)。 - 息子さんたちもお手伝いされているんですか。
- 全然しない(笑)。
法人になって、手が足りるからね。 - 法人には若い方も来られるんですか。
- ゴールデンウィークの忙しいときには、
若い人も来てますね。
忙しい時期は女の人たちは昼ごはん作りに行ったりして、
みんなでやってますね。
田植えの最初の日にはお餅をついたり。
「近所づきあい」兼「会社」兼「田んぼを守る」
って感じになってきて。
しなんたはまとまりがよくて、
他からも羨ましがられるような地区なんですよ。 - 三世代で生活されていた頃は大変でしたか。
- 3人おると1対1にならないから、
喧嘩が深刻にならないからいいんやわ。 - お姑さんとはそんなに喧嘩もなかったですか。
- ありましたよ(笑)。
うちのばあちゃん、すごいきかん(=気が強い)人やったから。
社交家で、外面はすごくいいんやけど。
奥ばあちゃんが味方になってくれて、
「さっちゃん、気にすんなや。」って。
でもひとつだけ不思議やなあと思うのは、
たしかにうちのばあちゃんわたしにはやさしくなかった。
でも近所の人にやさしくしとったもんで、
いまになってそれが返ってきとる。めぐりめぐってね。
「あんたのお義母さんにいつもなんでももらっとったから」
って、いろいろいただいたりね。
いまは、厳しかったけどいいとこもあったな、
って思えるね。 - つらいこともあったんですね。
泣いたことなんかも……? - 泣いたぐらいじゃないわ(笑)。
家出したこともあるし。
あるとき、子どもを幼稚園に送ったけど、
「あんなこと言われて……」と思って、
また幼稚園に引き返して、子どもを連れて実家に帰ったんです。
あわてておばが迎えにきて、
「一晩越したらなおこじれるから」って言われて、
一緒に帰ったけどね。 - そういうときはだんなさんはどうされてるんですか。
- だんなさんは仕事に行っとるから知らん(笑)。
- 子どもをみてもらいながらだと働きやすかったですか。
- というより……、
1軒の家に女は3人いらんげんわ(笑)。
女はひとりでいいんやわ(笑)。
昔うちのばあちゃんよく
「どこどこの嫁さんきかん」とか言っとってんね。
わたしへの当て付けで、
「ばあちゃんの言うことなんもきかん」とかね(笑)。
そしたら奥ばあちゃんが
「喧嘩っちゅうもんはひとりでできん。
それは両方ともきかんげんわ。
どっちか負けとりゃ喧嘩にならん」って。
それはほんとにその通りやなあって思う。
会社でもなんでも、人間関係で、
自分のほうが上やと思うから、
言われたことに腹立ったりするし。
お互いに協力してもらっとると思ったら、ね。
自分の悪いところって見えんがいね。
人の悪いところはすぐ見えるしね(笑)。 - ご夫婦では喧嘩したりするんですか。
- あんまりせんねえ。うちの人黙るから。
だからもう言っても無駄やなと思って言わん。
けっこういい加減にきいとるんやわ。
「あんとき言うたがいね」って。
だから、ほんとに大事なことは
「わかった? 返事は?」って言うげん(笑)。